漫才の教科書をつくりたい

メインは、若手芸人が、その4分間に人生をかける、年に一度の祭典『M-1』に見出せる「おもろい」を分析していきます。

『M-1 2018』「かまいたち」決勝の考察

まとめ

客への同意や、客の反応、「客」という存在を存分に利用した、見る人を飽きさせない漫才。必要以上に客に干渉することなく、客との適度な間隔を保ったまま漫才が進んでいく。相方に話すときは「関西弁」客に話すときは「標準語(さらに敬語)」という使い分けをし、客が「参加者」か「聴衆」かを選択するのが非常に簡単になり、受け手の分類をすることで漫才へのより強い共感を得ることができる。途中、2人が言いあうところがあるが、どちらかが遮って話を始めることで客を引きつけることができる。「ボケ」を客に納得させ、味方につける。「ツッコミ」は客に同意を無理矢理求めている。それで「ボケ」の味方になった客を漫才中に貶す。しかしそれも心地よく聞こえてしまう。この漫才では日常生活で起こりうる題材で、双方ともおかしいことを言っていない。よくよく考えるとおかしいということに気づく高級な漫才。

 

僕だけかもしれないんですけど

→なんですか

もしタイムマシーンがあったとして過去に戻って何か一つだけやり直せるとしたら

→俺も考えたことあるわ

 

○みんな1回は考えたことあるんちゃいます?

○→1回ぐらいはあるかもしれませんね

○2、3回考えてるって人もいるんじゃないですか

→2、3回あるかも

○(手を上げて)もっと考えてるって人

→広げすぎ、なにをするつもり

 

○絶対みんな考えたことある

俺も一つだけだったら決めてることがある

→じゃあ過去に戻ってやりなおせるならなにがしたいん

ポイントカード作り直す

ー少し間ー

→え?

コンビニのね(手でカードを表現して)

→ポイントカード作るん?なんなん

 

一番最初にポイントカード作りますかって聞かれた時、なんとなく断った、そこから毎回聞かれる、そこで今作ったら今までのポイントなんか損した気持ちになるから

→なんとなくわかる

へんな意地張って、結局作れてない、だから最初に作りますかって聞かれたあの日に戻って「はい、作ります(頭を下げて)」

→しょうもなすぎる、もったいないやろ

ポイントがやろ?だから・・・

→ちがうちがうちがう、誰がポイントの話してんねん、1個しか使えんのだったらそれに使うのはもったいない

 

ほなお前なにすんの

学生時代に好きだった子に告白できなかったから告白したい

○そっちのほうがもったいないですよね

○→いや僕のは気持ちわかるでしょ

○だってたまに思うぐらいでしょ?

→まあ何年かに一回ぐらい

そうやろ、僕のポイントカード作りますかは、レジに行く度に・・・

→わかるけど、ポイントカードなんか今から作れるやんか

おかしい、もう10何年ポイントカードいりません言うてんねんで、今日作ります言うたら店員どう?

→なんも思うか

店員からしたら、お客さんがお弁当二つ持ってきてこっちチンしてこっち捨てといてくださいっていってるもんやで、今分かりにくく説明した

→なんでそんなことすんねん、珍しいことすんな

タイムマシーンの使い方もったいないのお前や

○ねえ(目で観客に同意を求める)

→全然共感得てない、お前がずれてんねや

M-1史上最悪の客です

→そんなことないわ、ずれてんのお前や

だって、告白に成功したらいいですよ、でも今失敗した時のこと考えてます?

→失敗した時

○過去に戻って失敗した時、こいつになにが残ります?僕ポイントカード残りますけど、こいつなに残ります?(客の方に指を刺し)なに残ります?(声を荒げて客の方に強く指を刺し)なに残ります?

→怖いねん、強いねん当たりがお客さんに

失敗したらもったいない

○→失敗したらもったいないですけど、当時の感触でいえば、告白さえしてたら確実に成功してた

確実なんかわからへん、告白してみなわからへん・・・

→いや僕ね学生時代ね・・・

どうかこいつのマイナンバーがネットにさらされますように

→大変なことになるわ

(神に祈るような動きをして)

→神に祈るな、ふつう十字架やねん、三角ってどこの宗教やねん

 

確実に成功する訳ない

→なんでそこまで言えんねん

確実に成功するんやったら、お前当時告白してたよ、

→なにが

確実じゃないから告白してないんちゃうの?

○そう思いません?

これは頷いてる人おるやん、ほら

→ちがうちがう

お前痛いところ突かれて・・・

→全然平気全然平気

じゃあなんで告白しなかったのか・・・

→いろいろありますやん

いろいろとかじゃなくて、失敗する可能性があるから結局びびって告白してないお前は・・・

→しゃべらしてくれへん?俺に

そんな一か八かのことにタイムマシーン使うのもったいない

(2人が言いあう)

→そんなんやったらお前も一緒やないか

なにがや

→過去に戻ったからと言って、確実にポイントカード作れるとは限らへんやん

確実につくれるやろ、向こうが「作りますか」って言ってんねん、おかしいやろ、「作りますか?」「作ります」「いやだめです」ってなれへんやろ、ポイントカードは確実に・・・

→いや今のは間違えました

(山内が濱家の顔面を手で被せる)

告白なんかして、未来が変わって今出会ってる人と出会わない可能性がある

→お前だってポイントカード作った影響で出会わなくなる人おるかもしれんやん

おらんやろそんなやつ、誰やねん俺がポイントカード・・・

(濱家が山内の髪を両手で掴んで)

→お前そうやって反論ずれてんねん

お前もずれてんねん

→もしポイントカード作ってたらとかありえん話もしもしもしお客さんの前でもしのはなしとかすんな

お前がもしタイムマシーンあったら言ったやろ

 

→買い物しまくってポイントカード作って、未来のお前に追い付いたらいいやん

こいつも買い物しても差がずーーっと(両手で差を表し、腕を伸ばしたまま左右に振る)

ちょっと待て、今俺にマイケルジャクソンさしたやろ

→お前が勝手にやったんやないかい