『M-1 2018』「ミキ」敗者復活戦の考察
まとめ
兄弟漫才の利点「家庭感」を存分に利用した、見る人を一切不快にさせない、まるで「かわいい子猫の動画」を見ている気持ちにさせられる漫才。明確な「ボケ」がない分「ツッコミ」の爆発力に期待できないが、漫才中に「大喜利」を行うことで段階的な爆発を発生させた。
①兄:「兄弟仲良ぉやっていかなあかんね」
②悩んでいる内容
弟:悩んでる
→兄:悩んでる
弟:「最近勝たへん」
→兄:「勝たれへん」
→→弟:「勝たれへんねん」
→兄:「パチンコ?」
→→弟:「ちがうちがう」
→兄:「競馬?」
→→弟:「いや、違うよ」
→兄:「なに?」
弟:「馬鹿なこと言ってんじゃないよって言われるかもしれんねんけど」
→兄:「あんまり言わへんけどな、それ俺」
弟:「サザエさんのじゃんけん」
→兄:「馬鹿なこと言ってんじゃないよ」
③じゃんけんの練習
a
兄:じゃんけんを始めようとする
弟:「言ってよ」
→兄:「言って?」
弟:「サザエでございますって」
ー少し間ー
→兄:「なんで?なんで?」
弟:「サザエさんになりきってもらわな練習ならへんから」
→兄:「サザエでございます」
兄:じゃんけんを始めようとする
→→弟:「ちがうちがう」
→兄:「恥ずかし恥ずかし」
→→弟:「全然違うよ、『サザエでございます』や、これで言って」(言い方の違いはあまりわからない)
→兄:「サザエでございます」
→→弟:「ちがう、『サザエでございます』」
(これを2回繰り返した後)
兄:サザエでございます、と言おうとする
→弟:(兄の言い始めと同時に)「ちがう、『サザエでございます』」
兄:サザエでございます、と言おうとする
→弟:(兄の言い始めと同時に)「ちがう」
→→兄:「なにがちゃうねん、なにがちゃうねん」
b.発声練習
→弟:「全然ちゃう、一回この声出して、(低い声で)『おー』」
→→兄:「(真似をして)おー」
→弟:「もっと低い、『おー』」
→→兄:「(弟の「おー」と同時に)『おー』何の意味があんのこれ」
→弟:「発生練習な、『おー』」
→→兄:「(弟の「おー」と同時に)『おー』」
→弟:「(右腕を高く上げながら)サザエでございます」
→→兄:「(左腕を高く上げながら)サザエでございます」
→弟:「(低い声で、腕も低くして)おー」
→→兄:「(弟に被せて)おー」
〜「サザエ」「おー」を腕の上げ下げと共に数回行う〜
→兄:「本番で『おー』出さへんねんけど」
兄:「『サザエでございます』やろ、(低い声で)『サザエでございます』(低い声で)『本番で出さへん声出してます』」
兄:「サザエでございます」
→弟:「ちがう、(左腕を兄の胸元の高さにして)『サザエでございます』」
→→兄:「サザエでございます」
→弟:「ちがうちがう、一回これ(左腕)見て」
→→兄:「これ見てどうなんねん、これを見てどうなんねん」
→弟:「一回見て見て見て」
→→兄:「サザエでございます」
〜兄・弟が「サザエ」を数回言いあう〜
→兄:「サザエじゃございません」
ー少し間ー
→兄:「昴生(こうせい)でございます」
弟:「サザエさんです」
→兄:「昴生さんです」
c
弟:「じゃああれも言ってください、『さーて来週のサザエさんは』」
→兄:「何でそんなん言わなあかんねん」
弟:「(兄の右腕を叩いて)なりたいんやろ、サザエさんに」
→兄:「なりたいなんて一言も言ってない」
弟:「早く言って」
→兄:「(首を上下に振りながら)さーて来週のサザエ・・・」
弟:急に笑い出す
→兄:「なにがおもろいねん」
弟:「そんな首振るか、こうやって(兄の首振りを誇張して真似をする)、首振んのか?」
→兄:「じゃあどうしたらいいねん」
弟:「首は固定や」
→兄:「じゃあ言うとけや最初から」
弟:「早よ言って」
→兄:「さーて来週のサザエさんは」
ー少し長い間ー
弟:「(兄の腕を叩きながら)ちょ、続き」
→兄:「あ、そうかすんません、(弟の腕を叩きながら)すんませんってなんやねん」
弟:「続きあるやろ」
→兄:「さーて来週のサザエさんは、(無言で弟と正面を交互に見た後)『カツオです、姉さん』」
→→弟:「なにしてんねん」
→兄:「変わるやん」
→→弟:「勝手なことすんな」
→兄:「変わるやん」
→→弟:「サザエさんやろ」
→兄:「昴生さんです」
弟:「サザエさんのまま」
(会場内で謎の音(ネタとは全く関係のない音)が鳴り響く)
(2人とも音のなるほうを見ながら)
兄:「すごい音鳴ってる」
弟:「すごい音」
ー少し長い間ー
弟:「予告、サザエさんの予告あるやろ、3本言う」
→兄:「来週は、(無茶振りされた人の表情で)『ワカメ、襟足を、伸ばす』」
弟:「え?!(少し間)ワカメが?思春期?二つ目二つ目」
→兄:「(無茶振りの表情)えー、『伊佐坂先生の、自宅に、、(兄が笑顔になりながら)家宅捜索のメスが』」
弟:「え?!(少し間)なんか・・・」
→兄:「いろいろありまして」
弟:「色々あった、、、三つ目」
→兄:「えー、『三河屋さん、、、正面玄関から入ってくる』」
弟:「あれ裏口からしか入ってきはらへんねん、三河屋さん裏口って決まってんねん」
d→兄:「の3本です、来週も見てくださいね、じゃんけんほい」
(弟が負ける)
弟:「くそっ」
→兄:「なにしてんねんこれ」
この漫才を分解してみる
1、兄弟であることの告白
2、サザエさんジャンケンに勝てない悩み
3、サザエさんじゃんけんの練習
a、サザエさんになりきる
い、「サザエでございます」
b、発声練習
い、「サザエでございます」
c、来週の予告
い、「さーて、来週のサザエさんは」
1、ワカメの襟足
2、伊佐坂先生への家宅捜索
3、正面から入る三河屋さん
d、じゃんけんをする
そして感情で分類すると、3のcだけが「楽」で、それ以外は「怒」である。
解説をすると、最初に兄弟であることの告白をしており、弟が「サザエさんじゃんけんの練習をしたい」というわがままに兄が付き合わされている、という構図になっており、兄も渋々付き合っているため、感情の「怒」を観客に見せた場合でも、怖いという印象を与えず、「兄弟喧嘩」と括れるような、やりとりに「家庭感」を見出すことができる。さらに会話の始まりが「弟」の場合が多く、暗黙のうちに「兄の優しさ、弟のわがままさ」を表現している。これによって漫才に親近感をもたせることができる。この漫才には強い「ボケ」がなく、ツッコミ(兄)が弟の要求に応えるうちに「ツッコミの種」を撒いているのである。そのため、これは「ボケ」と「ツッコミ」の漫才ではない。